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東京地方裁判所 昭和35年(刑わ)3174号・昭35年(刑わ)2851号 判決

以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。

〔判決理由〕(判示第三の背任の認定理由等について)

一 昭和三五年六月二八日付起訴状別紙一覧表番号1関係について、検察官は、主たる訴因として業務上横領を、予備的訴因として横領を掲げているが、当裁判所は、これらを認めず背任と認定したので、次下その理由を説明する。

(一) 検察官の主たる訴因は、

「被告人は、昭和三三年四月一七日頃から東京都千代田区大手町一丁目四番地大洋自動車株式会社に雇われ、販路の拡張、自動車の販売並びに販売代金の集金等の業務に従事していたものであるが、昭和三四年一一月六日頃自動車代金として東京都千代田区丸の内二の三日本航空株式会社の吉川昭一から集金して同社のため業務上保管中の現金七二、〇〇〇円(柴田忠成の月賦代金)をほしいままにその頃同都内において自己の生活費等に充てるため着服して横領したものである。」

というにあるが、前掲各証拠(判示第三の事実関係の各証拠)によると、被告人が昭和三三年四月頃から東京都千代田区大手町一丁目四番地大洋自動車株式会社に雇われ、販売の拡張、自動車の販売および販売代金の集金等の業務に従事していたことは認められるが、本件にあらわれた全証拠をもつてしても、被告人が、昭和三四年一一月一六日頃、柴田忠成の自動車の月賦支払代金として吉川昭一から現金七二、〇〇〇円を集金し大洋自動車のために業務上保管したことを認めるに足りる証拠はないから、主たる訴因については証明が十分でないものといわなければならない。

(二) 次に検察官の予備的訴因は、

「柴田忠成が日本航空株式会社に対し乗用自動車一台を約二五日間賃貸した際、同人の依頼を受けてその仲介をしたものであるが、昭和三四年一一月一六日、同会社から右自動車の使用料として、額面九万一千九百七十円、振出人日本航空株式会社、支払場所三井銀行本店の小切手一通の交付を受け、右柴田のため預り保管中、同日東京区千代田区九段所在城南信用金庫九段支店附近において、ほしいままにこれを自己の生活費等に充てるため、着服して横領したものである。」というにあるが、前掲各証拠(判示第三の事実関係の各証拠)によれば、次のような事実が認められる。

(1) 被告人は、大洋自動車株式会社のセールスマンとして、昭和三三年四月二五日、柴田忠成に乗用自動車(オースチンA五〇型五八年式)一台を代金月賦払で販売し、柴田忠成は、以後下取の車の代金の右自動車代金への充当なども含め、所定の月賦代金を順次支払つていたこと。

(2) 日本航空株式会社総務部庶務課勤務の吉川昭一は、昭和三四年一〇月はじめ頃、近く同会社が幹事となつて開催する国際会議のために約一箇月間他から乗用自動車を賃貸する必要に迫られたので、当時日本航空株式会社に出入していた大洋自動車株式会社のセールスマン木村於京に、乗用自動車を約一箇月賃料約九万円で貸してくれるところはないかと頼んだところ、同人はさらに被告人にその旨を頼んだこと。

(3) そのため、被告人は、その直後、柴田忠成に対し、日本航空株式会社からの賃料の申入金額は約九万円であるということはふせて、「日本航空が外人客のため車が足りないといつているから、車を約一箇月間貸してやつてくれ。賃料は自動車の月賦代金二箇月分にほぼあたる七万円ぐらいでやつてくれ。」と頼んだところ、柴田忠成も、さきに大洋自動車株式会社から月賦で購入した乗用自動車(オースチンA五〇型五八年式)一台が当時あいていたので、これを応諾して、日本航空株式会社に右自動車を期間約一箇月賃料七万円で賃貸することとし、その旨を被告人に委託し、以後の日本航空株式会社に対する賃貸借契約の事務一切を被告人にまかせたこと。

(4) その際、柴田忠成は、被告人が日本航空株式会社側から頼まれて自動車の賃借先を探していたことを知つていたので、被告人が、その才覚で、日本航空株式会社側と交渉し、右の七万円を越える金額を受け取り、その差額を被告人の手数料として取得しても異議はなく、また被告人がそうすることも了承しており、柴田忠成としては、賃料として七万円をもらえばそれでよいと考えていたこと。

(5) 被告人は、柴田忠成の委託に基き、昭和三四年一〇月五日頃、日本航空株式会社に対し柴田忠成の前記乗用自動車一台を賃貸する手続をとつたが、日本航空株式会社との関係では、賃料は期間約一箇月で九万円ときめたこと。

(6) 前記吉川昭一は、昭和三四年一〇月末頃、前記自動車を返還し、同年一一月一六日、前記木村於京を通じ、被告人に対し、金額九一、七九〇円の小切手一枚(被告人との間できめた賃料九万円のほか駐車料金一、七九〇円を含む。)(振出人日本航空株式会社山田登、支払場所三井銀行本店、振出日昭和三四年一一月一六日)を交付したこと。

(7) 被告人は、昭和三四年一一月一六日、右小切手一枚を受け取るや、木村於京に礼金として一五、〇〇〇円を手持金の中から支払つたが、この小切手を現金化して、うち七万円を右自動車の賃料として柴田忠成に手渡すことなく、ほしいままに、自己の用途にあてるため、同日、東京都千代田区内の城南信用金庫九段支店の被告人名義の当座預金口座に右小切手一枚を振り込み、その頃これを自己の用途のために費消してしまつたこと。

(8) 被告人は、その後約二箇月間柴田忠成に対し何の連絡もしなかつたため、同人から自動車の賃料について問合わせを受けたのであるが、その頃は、同人に対し、「日航から小切手をもらつたために現金にしているから待つてくれ。」とその場をとりつくろつていたが、昭和三五年一月頃、同人に対し、情をあかし、自動車の賃料七万円を手渡さず使つてしまつたことについて、同人の自動車月賦代金二箇月分相当額(七二、〇〇〇円)を同人に代つて大洋自動車株式会社に納入する旨約したが、それも果さなかつたこと。

以上のような認定事実から判断すると、被告人は、柴田忠成に乗用自動車を日本航空株式会社に貸してやつてくれと頼む頃には、すでに、柴田忠成に対する関係での賃料額と日本航空株式会社から支払われる予定の賃料額との差額は、被告人の手数料等として受領するつもりであつたこと、柴田忠成も、被告人が本件自動車の賃貸借に関連して日本航空株式会社から賃料七万円のほかに手数料等を受け取ることは了承しており、柴田忠成としては被告人から賃料七万円を受領すればよいと考えていたこと、被告人が日本航空株式会社から受け取つたのは、現金ではなく小切手であり、その小切手の金額は、九一、七九〇円であつて、これには柴田忠成に対する賃料七万円や駐車料のほか被告人が受領すべき手数料等二万円も含まれていたことは明らかであるから、被告人は、右小切手を柴田忠成に手渡すべく同人のため預り保管したという関係にはなく、本件自動車の賃貸借に関連し、この小切手を現金化してうち七万円を柴田忠成に賃料として手渡すべき義務(任務)があるにすぎないのであり、そうだとすれば、被告人が右小切手を自己名義の当座預金口座に振り込んだ行為も、被告人の占有する他人の物をほしいままに領得したとうのではなく、被告人が他人の事務を処理するに当つてその任務に背いた行為をしたということで背任と認定すべきものと判断されるので、判示第三のとおり背任と認定した。

二 次に訴因変更の要否についてであるが、前示説明のとおり、判示第三の認定は、前示の小切手一枚を被告人名義の当座預金口座に振り込んだ事実が横領罪を構成するか背任罪を構成するかの法律的評価を異にしたにすぎないのであり、また右のように横領の罰条を背任の罰条に変更して認定することは、被告人が当公判廷において右事実関係の大筋を自認していることおよび横領罪と背任罪との刑の軽重等をも考慮に入れ、被告人の防禦に実質的な不利益を生ずるおそれがあるものとは認められないから、訴因変更をせずに可能であると解する(東京高等昭和二九年一一月一九日刑事八部判決高等刑裁特報一巻一二号五五二頁、最高裁昭和二八年五月二九日第二小法廷判決刑集七巻五号一、一五八頁参照)。(立原彦昭)

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